裏川・長走川 白蓬沢・引上ゲ沢・白滝沢・柳小屋沢・大倉沢(左岸尾根)

今回の山行では初めて裏川を訪れる。飯豊の沢の中でも特に奥深く未知の領域だったが、ほんの入口程度の範囲ではあれ実態を把握するうえで意義深い山行になった。

9月15日(曇時々晴)

実川沿いの車道は小荒地区以遠は公には通行止めとなっていが、小荒ダムを過ぎ裏川林道へ向かう。裏川林道は左手に180度折り返すように走ってきた道に合流している。裏川堰堤は東北電力の設備なので時折維持点検に入るのであろう。林道は整備されている印象で、ほとんどフラットな状態を保っている。終点は車数台を停められる程度の広場となっている。

林道終点から裏川左岸沿いに山道が続いているはずだが、入口はボサを被っていて分かりづらい。何度か右往左往した後に、ようやく堰堤に降っていく道の右手に若干踏まれたような跡を見つけることができた。ボサで分かりづらいのは入口だけで、一旦踏み入ってしまうと次第に踏跡がはっきりしてくる。草叢を抜けると樹林となり、やがて斜面をへつるような道になる。林を抜けるとまた草叢になり、草を踏みつけただけのような外傾した区間も出てきて距離の割に時間がかかる。真夏の猛暑の中をアブに纏わりつかれて歩くことを想像するとかなりげんなりする道だ。草叢を抜け再び林の中に入ると裏川の流れに近づいていき、快適な段丘のある要所口に到着した。

山道入口
要所口の気持ちよさそうな台地

要所口付近は川幅が広く流れが比較的浅いので徒渉は容易である。白蓬沢出合右岸にオレンジ色のカバーを被せた物があったので、中を見ようとしたがカバーの下はブルーシートで覆われており、オレンジ色のカバーが意外に硬くて重いので中身を見ることはできなかった。

裏川本流徒渉点

白蓬沢は出合付近では、開けた谷に浅い瀬が続くが次第に両岸が切り立ってきてゴルジュ状の谷となる。2~3Mの滝と小滝が2~3本まとまったような滝場がちらほら現れるが、いずれも結構深い釜を持っている。難しそうというよりは水に浸かるのを避けるために巻いていくが、特に悪い所はない。二俣が近づいてきたところで、倒木の堰を伴った2Mの滝から明瞭なゴルジュを呈しており、高巻から沢床に戻るのに懸垂下降した。連続する3M、3×6を越えるとゴルジュを抜け、この後左からカーブするように釜に注ぐ4M滝を越えると左に支流を分けて、まもなく二俣となる。左俣は3段15Mの滝を懸け、右俣は穏やかな流れで合流するので一見右俣が本流のようにも見えるが、水量比は(3:2)といったところで、地形図から読み取れる地形からも本流は左俣であろう。

白蓬沢出合付近
しだいに両岸が立ってくる
深い釜を持った2M滝
深い釜の2.5M滝
特に難所という程のところはない
上部に倒木の堰がある2M滝
懸垂下降点付近
4M滝
二俣 正面は左俣の15M3段の滝

右俣は5Mくらいまでの高さの滝が点々と懸っているが、特に難しい所はなく全体的には平凡な印象である。最後まで傾斜が強くなったという印象もないまま尾根に突き上げている。

右俣は穏やかな印象
小滝の連瀑
連瀑を過ぎると一層開けてくる
5M滝
緩傾斜の河原が続く
8M2段の滝
右俣で最も上流に懸る5M滝
最後まで斜度が強くならないまま詰め上がる

当初の計画では尾根からこびやた沢へ下降したところで1泊目の幕場とするところであったが、山行前の天気予報では17日の昼前後から雨だったので、本流が増水して徒渉できなくなることを警戒して先へ進むことにした。18日には台風が新潟に最接近する予報が出ていたのも先を急ぐ動機を大きくしていた。

尾根にはうっすらと踏跡がついている。こびやた沢へ下降して詰めるよりも早く引上ゲ沢への乗越点に行けそうなので、沢へ下降せずにこのまま尾根を辿って乗越点へ向かう。多少ブッシュが邪魔なところはあるが、胎内尾根よりはかなりましで、一時間強で辿った尾根の最高点の1000M地点に到達した。直進して尾根の反対側へ降っていくとすぐに引上ゲ沢が見えてくる。

尾根にはうっすら踏跡がある
尾根から見たこびやた沢側の谷

ブッシュを掴んで降っていくが、降るにつれてブッシュが少なくなってきて沢床付近は草付となっていたので最後は懸垂で沢床に降りた。もちろんロープを掛けられる木などないので、シュリンゲで支点を作って残置することになった。

地形図が示すように引上ゲ沢は比較的平坦な流れだが、両岸は懸垂下降を要するほどに切り立っている。滝が懸っていないようにとはかない希望を持ちつつ下降するが、すぐに裏切られる。いくつかはクライムダウンしたが、小滝群が注ぎ込む釜を避けるために右岸を巻き、何度か下降を試みるがその都度難しそうな小滝が目に入り、下降しかけては巻きを継続して沢が左に曲がり始める所でようやく沢床に降りた。

引上ゲ沢下降点
流れは平坦だがゴルジュの様相を呈してくる
右岸スラブから煩い小滝群を巻く

二つの滝をクライムダウンしたが、すぐに8Mの滝に下降を遮られる。基部には丸い釜があり周囲の壁も釜を囲むような円筒状で流れ出すところだけが割れている。右岸を巻いて懸垂で沢床に戻り、続く3Mの滝を基部に突き刺さった大木にロープをかけて懸垂下降すると、しばらく穏やかな渓相になる。

円筒状の壁に囲まれた釜に落ちる8M滝
懸垂下降した3M滝

右岸から枝沢を2本併せ、4Mの滝を下降すると再び両岸が立ってきて、795Mあたりからは釜を擁した滝が続くようになる。ここで左岸の小尾根の先端に取付いて一気に白滝沢まで巻くことにした。小尾根を詰めて主尾根に合流すると踏跡があり、これを辿って小ピークを越えた先のコルまで進んだ。コルから白滝沢へ向けて下降していくと、椀を伏せたような4M滝が注ぐ釜の畔に出た。

4M2段の滝
ゴルジュの中へ落ち込んでいく
左岸尾根に上がって白滝沢へ下降する
白滝沢の椀を伏せたような4M滝

幕場を探しながら白滝沢の左岸を下降していくと、一旦1Mくらいの沢幅に狭まったあと穏やかに淵へと流れ込み、淵の畔に小高い砂の台地があったので、そこにツェルトを張って初日の行動を終了した。

穏やかな流れ込みの淵の畔の砂地を幕場にした

9月16日(曇時々晴)

この日の天気予報は曇時々晴で問題なさそうだが、翌日の情報は山行前のものなので当てにならない。できれば本日中に要所口まで足を延ばすつもりで出発したが、思わぬところで時間を食ってしまい久々に快適とは程遠い幕場で一夜を過ごすことになった。

淵の畔を出発するとすぐに8×5の滝となっており左岸を小さく巻いていく。その後白い岩盤を滑り落ちる優美な6×18のナメ滝の流れの左を歩いて下降する。沢が右に曲がって10Mの滝となったところで右岸を巻いて懸垂で沢床に戻ると、ゴルジュとなるが小滝が懸る程度で問題なく通過できる。530Mを過ぎて深い釜から菱形の大きな淵へと続く2M滝を右岸から巻く。やや開けた渓相になり、次の滝を左岸から巻いたところで連瀑となっているので、まとめて右岸を巻いて尾根の末端に降りていくと二俣に出た。

8×5の滝
6×18ナメ滝
6×18ナメ滝
ナメ滝を降ると河原が広がる
10M直瀑 ここから右岸を巻く
懸垂下降点付近
少し開ける
この辺りから右岸を巻く
二俣から見た白滝沢

二俣では水量比(1:1)で大滝沢と白滝沢が出合っており、見渡せる範囲では大滝沢には滝はなく、白滝沢は白い大岩とその奥に見える滝が印象に残った。水量はだいぶ増したが沢幅も広がって柳小屋沢出合までは平凡な渓相である。出合からは恐らく杉ノ沢出合と思われる河原が見渡せた。

柳小屋沢の出合は少々藪っぽい印象だ。平凡な渓相に時折小滝が懸るが、いずれも倒木の堰を伴っているように感じるほど倒木が多い。この調子で淡々と尾根に詰め上がるかと思っていたが、550M付近で大きく右へカーブしている区間でほぼ垂直の壁に滝を懸ける枝沢を過ぎると、どうにも登れそうもない3M滝に遡行を阻まれた。左岸の草付からブッシュ帯に取付くが、ブッシュ帯になってからが悪く、延々と疎らなブッシュを辿って追い上げられて懸垂で沢床に戻るまでに一時間半以上要してしまった。

柳小屋沢出合付近
2Mと8Mの滝
2~3Mの滝が多い
右岸枝沢の60M滝
右岸枝沢の40M2段の滝
ゴルジュに懸る登れない3M滝

その後再び平凡な沢となるが、600Mを過ぎたあたりから斜度が増してきて、ナメと小滝が続くようになる。斜度が増すにつれて水流は細くなるが滝の落差は大きくなり、登れない滝も出てきて高巻きが多くなる。最後は再び小滝とナメが続くようになり、やがてブッシュ帯に沢型が消える。ブッシュを頼りに急な坂を上り切ると筆塚山北北東の小ピークのやや南側に出た。

8×15滝
逆相の5M滝
15M滝
12M滝 この先標高差70Mに渡って滝が続いた

ここにも踏跡が続いていた。時刻は15時を回っていたが、大倉沢へ向けて下降していく。急なブッシュ帯をルンゼを避けるように小さなトラバースを交えながら下降していくが、最後はルンゼを下降していくと滝となって大倉沢に合流した。

筆塚山付近に刻まれる大倉沢源頭部

落口の倒木を支点に懸垂下降で沢に降り立つが、足下に続く5M滝もまとめてロープを伸ばして下降した。続く3Mをクライムダウンしたものの、すぐに深い釜に落ちていく5M滝が懸っており、その先も亀裂のように鋭く抉れた谷が続いているように見えたため、沢に幕場を求めるのを諦めて左岸を登り返すことにした。860M付近に幾らか傾いてはいるもののツェルトを張れる程度に開けたところがあったので、ここでこの日の行動を打ち切った。

滝が断続するゴルジュで幕場を得られそうにない

9月17日(曇)

大倉沢へ下降するつもりで早めに荷物をまとめたが、標高では尾根の方が近く、下流に向かってトラバース気味に下降していくと尾根付近まで続いていそうな露岩のルンゼに出たので、尾根にあがることにした。いずれにしても雨が降り出す前に裏川を渡りたいので、より早く下降できそうなルートを選択したつもりである。ルンゼは見た目通り尾根の30Mくらい手前まで続いており、終始快適なスラブ登攀といった感じで順調に詰め上がった。

ほとんど草付スラブのような露岩のルンゼ

尾根にも予想通り踏跡があって、思ったより早く下降できそうだった。720Mの小ピークを過ぎると踏跡が不明瞭になるが、コンパスで方向を定めて大倉沢出合に続く尾根を下降した。途中開けたブナ林があり、尾根の末端付近は植林帯となっている。どうやら裏川左岸の山道はこの植林で仕事をする人たちによって使われているようだ。

痩せ尾根が続くが下部は広がってくる
出合付近は植林が広がる
大倉沢出合付近

要所口以上に広く浅い本流を徒渉して山道にあがり、またうんざりする草叢を抜けて林道終点に戻った。

荷物を整理して車に積み込んでいるときに、ぽつぽつと雨粒が落ちてきたが本降りにはならず、赤湯温泉で入浴後、昼食を摂っているときに本降りの雨になった。大倉沢を下降しても間に合ったかもしれないが、大倉沢は来年にでも遡行してみればよかろうと思うことにした。

 

遡行図:白蓬沢引上ゲ沢・柳小屋沢

山行最終日:2017年9月17日
メンバー:長島
山域: 飯豊連峰 阿賀野川
山行形態: 沢登り
コースタイム:
15日:裏川堰堤(7:20)-要所口(8:45)-白蓬沢二俣(10:30)-右俣源頭尾根(12:10)-烏帽子山南尾根1000M地点(13:10)-引上ゲ沢795M(15:55)-白滝沢615M(17:15)
16日:白滝沢615M(6:30)-長走川二俣(10:15)-柳小屋沢出合(10:25)-550M付近の3M滝高巻き(11:10-12:50)-筆塚山北方小ピーク付近(15:00)-大倉沢720M付近(16:20)-700M付近(16:50)-左岸860M付近(17:45)
17日:大倉沢左岸860M付近(5:35)-尾根(6:05)-尾根末端大倉沢出合(8:25)-裏川堰堤(10:00)
地形図:日出谷・蒜場山
報告者:長島