胎内川東俣沢坂上沢(大黒沢)

今回は胎内川を楢ノ木沢出合から通して遡行することと、東俣沢の作四郎沢と坂上(大黒)沢を遡行することを目的とする計画だったが、16日に接近した台風をやり過ごすために作四郎沢を省略した。

14日:

奥胎内ヒュッテ裏の浅瀬

奥胎内ヒュッテ脇の階段を下って胎内川を徒渉する。ここを徒渉するのは四回目だが、ネットでよく見かけるような「膝くらいまで」の水位は初めてだ。

アゲマイノカッチへの登りも三回目だが、今回は7mm70Mロープ、宿泊装備と6日分+予備の食料を含む重荷がこたえる。ところどころに新しい鉈目が目に付いた。アゲマイノカッチからは東南東へ伸びる尾根を辿り、尾根の先の小ピークから南の小尾根を下った。前回まで辿った小沢よりもしっかりした踏跡が続いており、楢ノ木沢の出合上2M石門の滝の上に出た。対岸の巻き道から本流に降りる。

作四郎沢手前の急な流れの深場

前回よりも水量が少なく、ほとんどの区間が膝くらいまでの水量なので、だいぶ楽に遡行できる。前回苦労した流れの速い深みも、小バンドを乗越すと緩流帯となり足が底に届くので、そのまま左壁際を進んで簡単に深みを脱した。前回小さく巻いたところも、今回は沢通しで進む。水量の差は遡行時間にも現れており、前回作四郎沢出合まで1時間40分要したが、今回は50分で達している。

薬研沢を分けると浦島と呼ばれるゴルジュになる

薬研沢から滝沢の間は、今回初めての遡行となるが、概して膝下くらいの水量の瀬が続く。薬研沢を過ぎて左に屈曲してから右カーブしている所と滝沢の出合下に1Mくらいの落ち込みがあるが、問題なく通過する。

団子河原に到着 幕場の台地は奥の木立の中にある

滝沢出合を過ぎると、ブナが直立する段丘を擁した団子河原となる。昼前に到着したが、台風の影響を見定めるまで、この沢で最も風雨への耐性が高いこの段丘の幕場に停滞することにした。

午後は幕場の少し下流から左岸の枝沢を併せるところまで、約一時間釣りを楽しんだ。焼き枯らし用に7~8寸を3匹と刺身サイズを一匹の釣果を得て、幕場に戻って早速尺上を刺身にして贅沢な間食を堪能した。

15日:

8時過ぎから時折弱い雨がぱらつく。10時頃から本降りになり、14時過ぎに止んだ。1~2cm程度増水したが、やがて元の水量に戻った。翌日は雨の予報だが、この日の夜は月が出ていて雨が降ることはなかった。

16日:

午前中は時折小雨がぱらつく程度だったが、次第に風の音が大きくなってくる。昼前から風雨が強まり、12:15食後にテントの中から流れを窺うと、川は濁流と化して荒れ狂っていた。流れは河原いっぱいに広がるが、段丘はさらに1.4Mの高さがある。段丘の植生から段丘上が濁流に洗い流される可能性は極めて低いことが窺えるが、一応非難できるよう荷物をまとめ、対岸に水位を測る目印を定めて様子を見続ける。

14時前に幾分雨足が弱まり、昼から最大20cmくらい増していた水位が減少する。14時過ぎには下がり続けていた気圧が上がり始めるのを確認するが、雨はなかなか止まない。

17時にようやく雨が上がり、団子河原には増水した沢の音だけが漂う。11時頃には濁りが引いたが、水位は増水前よりも10~15cmくらい多いようだった。

17日:

台風一過の団子河原

水位は昨夜から減っていないが、予報ではしばらく晴天が続くようなので、西俣出合まで行ければ何とか遡行できると判断して団子河原を発つ。

一昨日釣り遡った河原も水位水勢共に増していて結構苦労するところがある。棒切れを拾って杖突徒渉を交えながら50分で西俣沢出合に達する。

東俣沢に足を踏み入れると渓相が一変する

東俣沢に入ると釜が4つ続き、その先に釜を持った3Mと10M滝が懸かる。3M滝手前の右壁を登って西俣沢との中間尾根に上がり、10M滝上まで巻いた。谷はやや開けて簡単な滝がいくつか懸かる。

滝も側壁もフラットな堰堤状の滝

560Mで谷が右に折れて右岸に枝沢を見ると、岩壁の間に堰堤のような7M滝が懸かる。正面は登れそうもないが、右壁沿いにホールドが並ぶ。右壁に圧迫されて少しバランスがとり辛いが、ガバが並ぶので簡単に登れた。

右岸を巻く途中で10M直瀑を見下ろす

ここからゴルジュが続き、4M滝を越えると直登困難な10M滝が懸かる。右岸の少し手前から巻いて、残置シュリンゲを利用して30M強の懸垂下降で沢床に戻った。

抉れた左壁の下に渦巻く釜と小滝がある

直ぐに沢は右に折れて、ハングした左壁の下に釜を擁する3Mのスライダー状の滝が懸かる。左壁沿いをへつるように泳いでいくと渦巻く流れに乗って壁下の窪みに吸い込まれる。この窪みで水流は洗濯機のように強力な渦を巻いている。水深は腰上くらいとなっており、ここからスラブ状の左奥壁に乗り込み、外傾する微妙なスタンスを拾って滝の基部にトラバースする。基部から少し登ったところで対岸のCSに足を伸ばしてツッパリの体勢を作ってCSの上に乗り移った。

続く3Mを越えると水勢激しい3M滝が懸かるが、前の滝の釜で体が冷えてきたので右岸のリッジに取り付いて高巻きに入る。露岩の基部まで登ってブッシュが生えたバンドをトラバースするが、水をかぶりそうなCS滝が見えたので、これもまとめて巻いた。適当に斜度が落ちたところで下降して沢床に戻ったが、直ぐに壁間いっぱいに広がる釜があり、右岸を巻いて二ノ沢出合の岩場をクライムダウンした。

坂上沢のF1-F2は共に10Mの直瀑

二ノ沢の滝が陽光に映えて清清しく見える。直ぐ隣は本源沢で、出合のゴルジュに悪相の三つの滝が続いている。坂上沢は3M滝の先でゴルジュが左に屈曲しており10M滝が二つ続いている。ざっと見て、本源沢との中間尾根から高巻くことにした。

10M滝二つを過ぎた辺りで下降しようとしたが、さらに先に登れないか登れても水流を浴びそうな滝が見えたので高巻を続けて懸垂20Mで沢床に戻った。

沢床歩きも束の間で、早速水流を浴びないと登れなそうな5M滝が懸かっており、右岸を高巻くことにする。先に続く滝も巻いてしまおうとだらだらと高巻を続けて、結局作四郎沢出合手前の屈曲点で懸垂下降20Mで沢床に戻った。この懸垂下降の支点をセットしているときに、木の枝にはじかれて腕時計が外れて落下してしまった。一応探しながら懸垂下降したが、やはり見つからなかった。

作四郎沢を過ぎると大岩混じりのガレが沢を埋めていた

作四郎沢は出合から2Mと12Mの滝を懸けていて、入渓に難儀しそうな渓相だ。坂上沢は出合の直ぐ上に釜があり、その傍らで昼食を摂った。

堰止湖になっていなければよい幕場だったかもしれない

次の釜を持った4MCS滝は空身で岩と左壁の間を登って荷揚げをして越える。先には高々と積み重なった巨岩が視界を塞いでいる。巨岩の上を縫うように登っていくと、左壁に崩落して抉り取られたような窪みがあった。流れはこの岩の下に隠れている。上流は堆積湖になっており、河原がありそうな少し開けた地形だが沢床は完全に水の底に沈んでいた。湖の先の屈曲点にわずかな平坦な小石の河原を見つけて幕場とした。河原の直ぐ先には10M滝が懸かっているので、飛沫が飛んできて日が沈むと少し肌寒いところだ。

18日:

幕場はこの滝の飛沫が舞っていた 朝一番にこの滝を越える

この日は朝一から10M滝の処理となる。朝日俣沢(岩魚止沢)のようだ。右岸のルンゼから樹林帯に取り付いて高巻く。

左からの悪い巻きで越えた10M滝

次の釜を持った8Mは右側の泥付を登って巻いた。さらに釜を持った滝が続き、10Mは左側のまばらなブッシュを掴みながら草付を登り、草付バンドをトラバースして落口に抜けるが悪い。小滝を越え、夫々釜を持った2Mと10Mをまとめて左から巻いた。

谷が左に折れてゴーロが続く

谷は左へ右へと折れて、その先にゴーロが続く。途中で20M滝を懸けて恵比寿沢(左俣)が出合っており、大黒沢(右俣)は4MCS滝を懸けている。

荷揚げを重ねて登った12M滝

右側に巨岩が鎮座する3M滝と三つの小滝の先に落口の左側に大岩が乗った12M滝が懸かる。空身で左壁を登って中間テラスで荷揚げする。途中で引っかかって苦労したが、このあたりが単独行のやっかいなところだ。テラス上でさらに一段荷揚げしやすいところにザックを移動し、落口に乗っている大岩に乗り上がって再び荷揚げをしてようやく12M滝をクリアした。

8M滝を右側の斜上バンドを伝って越えた

小滝二つを越し、8M滝は右側のバンドを登り、続く滝はバンド上から右側を小さく巻いて落口に出た。4M滝を越え、次の4M滝は左側から水流を潜って右壁に取り付いて登る。8M末広滝は簡単だが次の4MCSは空身で左側の草つきを微妙なスタンスを拾ってトラバースする。ここからいくつかの小滝と4~5Mの滝を越えると920Mで、左に(2:1)で枝沢を分ける。

連続する滝を右から巻く 途中で見下ろした10M滝

枝沢を分けた後、4M、10M、8M、2MCS、4M2条、4M、3Mと滝が続くがまとめて右から巻いて、残置シュリンゲを支点に約10Mの懸垂下降で沢床に戻る。

しかし直ぐに壁の間いっぱいに水を落とす5M、5MCS滝が続き、右壁に取り付いて屈曲点まで高巻いて、懸垂で沢床に戻る。降り立った沢床の直下には三つの5~6Mクラスの滝が続いていた。

枝沢に懸る30Mの滝

ここから流れが左に折れて5M滝を懸けており、その先で再び右に折れて、視界の正面には枝沢の30M滝が爽快に飛沫をあげている。ここから1020Mまでゴーロが続き、右に顕著な枝沢を分けている。

7段からなるスラブの50M滝

本流は一旦左に折れて、右にカーブを描きながら2M、7M、2M、7Mの滝が懸かる。これらの滝を越えると、正面にCSを擁したルンゼと左壁から飛び出すように落ちる水流が見えてくる。近づいて見上げると50Mくらいありそうな大滝である。水流を潜って下段8M滝の右壁に取り付く。全体としては7段からなるスラブ上を滑り落ちる連瀑である。

大滝上段

下段から8M、5M、8Mは右壁を登り、左にトラバースして上段の15M、4M、2M、5Mは左壁を登った。

Y字型7M滝は右壁を登った

大滝上もさらに滝が続き、2M、4Mを水流を跨ぐように登り、釜を持ったY字型7M滝は右壁を登り、続く二つの8M滝は右岸を巻いた。5Mを左から巻き気味に登り、2M2条、2Mナメ滝に続く2MCS滝は右岸の草付をトラバースする。

枝沢を分けた後に続く滝 右から巻いた

右に(1:1)で枝沢を分けて、7MCSを右から巻くと、また右に枝沢を分ける。この先に連続する5M、3M、6M、10M、6Mくの字状ナメ滝はまとめて左岸から巻いた。高巻きの途中枝沢一本を越えた。沢床に戻って5M前後の滝四つを越えると奥の二俣となり(1:1)で水流を分ける。

右俣に入るとスラブに小滝が続く

右俣に入ると簡単な4M滝の後に(1:1)で左に枝沢を分ける。8M、7M、スラブ上に続く小滝の連瀑を越えると右に水流を分けて本流は枯れてしまう。

涸れた窪を辿り、草付スラブを詰めて稜線に出た

ここで水を採った後、枯れた窪をた辿ると程なく草付スラブとなって150Mくらいの高度を稼ぐ。わずかにブッシュを掴んで登ると二ノ峰の南西から西に派生する小尾根に乗り上げた。

二ノ峰山頂から藤七ノ池を見下ろす

藪を漕いで登り、二ノ峰から藤十郎山へと続く尾根に出るとかすかな踏跡が途切れ途切れに現れてペースアップする。二ノ峰直下から踏跡は明瞭になり、廃道となった登山道に合流する。山頂から鎖場を下降すると廃道は不明瞭となるが、適当に降りていって藤七ノ池の草原に出た。

藤七ノ池の草原の中の平坦な所にテントを張った

平坦地を見繕って幕場とした。快晴微風であったが、標高1600Mの夜の冷え込みは強く、そろそろ泊まり装備も秋仕様に切り替え時かと感じた。

19日:

二ノ峰を見上げる これから手強い笹薮漕ぎが始まる

藤七ノ池から先は笹薮深く、かつての登山道の跡もほとんど途切れており、残っている所も不明瞭になっている。コルまでは踏跡を探すよりも笹薮の薄いところを選んでひたすら掻き分けて進む。

コルからは登るにつれて踏跡が残る部分が増してきて、笹の丈も低くなって進みやすくなる。時折吹き上げてくる心地よい涼風に吹かれながら、藤七の池から3時間45分で門内小屋の前に着いた。

藤七ノ池から3時間45分かかって門内岳に辿り着いた

門内清水で給水して頼母木小屋を目指す。緩やかな登り降りを繰り返しながら、徐々に高度を下げ1時間45分で頼母木小屋に到着した。引水を利用して昼食を採った後、最後のピッチである足ノ松尾根下降にとりかかる。

重荷の負担が脚や背中の疲労となって現れてきたが、思ったほどペースは落ちておらず、足ノ松沢を登った時とほぼ同じ時間で奥胎内ヒュッテの駐車場に停めた車に辿り着いた。

 

遡行図:胎内川本流坂上沢

山行最終日:2013年9月19日
メンバー:長島
山域: 飯豊連峰 胎内川
山行形態: 沢登り
コースタイム:
14日:奥胎内ヒュッテ(7:40)-アゲマイノカッチ(8:30)-楢ノ木沢出合(9:25)-作四郎沢出合(10:15)-薬研沢出合(10:25)-団子河原(11:50)
15日:団子河原に停滞
16日:団子河原に停滞
17日:団子河原(5:40)-西俣沢出合(6:30)-本源沢出合(10:05)-作四郎沢出合(13:30)-690M付近幕場(14:30)
18日:幕場(6:10)-恵比寿沢出合(7:20)-990M付近=枝沢30M滝下(12:00)-1280M二又(14:45)-二ノ峰西尾根(16:15)-藤七ノ池(17:15)
19日:藤七ノ池(6:15)-門内小屋(9:55)-頼母木小屋(11:45)-奥胎内ヒュッテ(15:30)
地形図:二王子岳
報告者:長島