飯豊川本流~文平沢右俣

飯豊川――飯豊連峰の数ある沢の中でも1,2を争うほど充実した内容を持つ渓である。流されれば命のない強く、豊富な水量、高く威圧的なゴルジュ、嫌らしい草付、厚さ10m以上に及ぶ崩れそうな雪渓、どれをとっても一筋縄ではいかず、その遡行には4泊からを必要とする。飯豊のみならず国内でも有数の渓である。今回、初めて足を踏み入れたものの天候不順で下部のゴルジュはカットせざるを得ず、飯豊川の難しさを肌で感じる結果となった。

12日(火)曇り時々雨 長島さんの車で西新発田駅近くの駐車スペースに前泊。トイレ、自販機、東屋があり、車の通行も少なく静かでいいところだ。翌日、ゲートのある加治川治水ダムまで。平成25年7月の豪雨の影響で加治川ダムまでの林道は車の通行ができないが、実際の林道の状態は十分車が通れるほどである。もったいないものだ。この腹立たしいアプローチを1時間45分ほどで広場のある加治川ダムに至る。ここから登山道となって約1時間半で湯の平山荘に至るが、途中スラブの露出したトラバースやアップダウンがあり、なかなかハードである。北股川にかかる吊り橋は橋板がつけられ、普通に通行できた。山荘前で支度をし、温泉を通過していよいよ飯豊本流に入渓する。

入渓すると早速激流である。長島さんは右岸をうまくトラバースして越えていくが、井谷はまだ体と足が慣れていないのでザイルを出してもらい水流をゴボウで行くことにする。しかし奔流に押されて一歩も進めない。リアル徒渉訓練である。長島さんに確保の位置を変えてもらい、振り子気味に徒渉してなんとか突破する。谷の幅は狭まり、釜を持った1mほどの落ち込みが現れる。長島さんと私が交互に釜の右を泳いでみるが足がかりが乏しく敗退。釜がホワイトウォーターで浮力が乏しく、かなりの恐怖を感じる。少し戻り、右岸に徒渉して岩をへつって抜けた。しかしここで雨が落ちてくる。やや強い降り方で、ゴルジュ内の増水のリスクを考え撤退する。入渓から100mも進んでいない。この日は湯の平山荘で昼寝をしたりしてうだうだして過ごす。釣り師1名と同泊で、長島さんと同年齢の同じ月生まれだったこともあり話が弾んだ上にビールをご馳走になった。

13日(水)曇り ラジオの天気予報では高気圧の張り出しが弱く、不安定な天気を告げている。この時点で下流部をあきらめ、おういんの尾根を登って孫左衛門沢を下降し、本流に向かうことにする。おういんの尾根は一般ルートではないが、刈り払いされていて普通の登山道と大して変わらない。しかし登り出しが急で一汗もふた汗もかかされる。しかもツキノワグマ2匹、マムシ1匹と遭遇するおまけつきだ。孫左衛門沢の下降点には3時間半で到着、左俣を下降する。階段状の沢は降りやすく、滝も少なく下降向きである。右俣出合には30mほどの滝がかかっていた。ほどなく本流に到着。まだまだ水量は多く、渓相は平凡ながら油断していると足元をすくわれそうである。この日は洗濯沢出合少し上の砂地にファイントラックのツエルト+タープを張る。焚火もできて至極快適なり。厳しい渓にいることを忘れる。この日は私が食当。たたききゅうりのピリ辛、ひじきと豚肉の煮物で飯。長島さんが冷やした酒をちょっといただく。うまい。

14日(木)曇りのち晴れ 朝方、少し雨がぱらつく。いよいよ飯豊本流の上部ゴルジュ帯に入る。平凡な流れを少し行くと右岸から赤渋沢が出会う。岩壁の中に2段50mの大滝を掛け、なかなか壮観である。赤茶けた谷はすぐに右折してゴルジュとなり、明らかに雪渓のものと思われる水蒸気が漂う。ただならぬ雰囲気の中進むとやはり、ゴルジュに崩壊したブロックと先の見えない雪渓がかかっている。到底進めず、ゴルジュ入口まで戻って右岸のルンゼから巻きに入る。気を遣う段差をこなしていくといつしか急峻な草付となり、強引に登ることはせず右の樹林帯からシャクナゲの灌木帯に入る。小尾根に登って先を見渡すと谷筋は膨大な雪渓で埋め尽くされている。雪面にクラックの入っている先で降りる。少し雪渓を歩くといったん途切れ、滝が露出している。ここは雪渓からの懸垂を2回やって谷に降りる。雪渓の間にスッパリ亀裂が走って黒い口を開けているのが不気味である。2回目の時は雪渓上にちょうど良く大岩と大木が転がっていたので、これで支点を作って懸垂することができた。ゴルジュの中の3m滝、大岩を登るとまたもや崩壊したブロックと高い雪渓。左岸の岩に取り付き、ルンゼのところで念のためロープを出す。途中まではサクサクだが脆く立った壁が出てくる。長島さんハーケン打って越えるがなかなかきわどい。私はロープなしでは死んでいた。ロープをしまってトラバース、懸垂30mを2回やって雪渓上に降り立つ。

ここから先はびっしりと雪渓が続き、ただただ歩くのみ。幸運を感謝すべきだが、中は何もわからない。地蔵カル沢、大日沢、滝谷沢と過ぎ、しばらく行ったところで雪渓途切れる。左岸の草付に取り付き、トラバースして懸垂17mで再び雪渓上へ。ちょうど10m滝の上で、懸垂の残置支点があったので皆同じところを巻くのだろう。またもや延々たる雪渓歩き、あっという間にテンバ予定地の天狗沢出合についてしまう。御西沢出合まで出かけてみたが、なかなかいいテンバがなく、結局天狗沢出合の雪渓に堆積した土砂の上を均してツエルトを張る。このころから晴れてきて気分爽快なり。散乱した木を集めて雪の上で盛大な焚火をやる。いつしか星が出てきた。

15日(金)晴れのち曇り後風雨強し 文平沢に入る。昨日、すでに見えていた文平滝2段30mに取り付こうとするがどこもかしこもシュルントが開いており取り付けない。またもや雪渓から懸垂・荷下げし、ようやく左壁に長島さんトップで取り付く。私の番になったところで傍らの雪渓が崩れ、雪煙と水飛沫が上がる。問題の文平滝はスタンスに泥が載っていて結構いやらしかった。この上の6m滝は右岸の草付を登るが、傾斜が急なうえにヒョロヒョロの頼りない草が生えているだけ。長島さんアイスハンマー使用でさっさと行ってしまうが、どう見ても悪そう。ロープを出してもらうがやっぱり悪い。長島さんの沢靴には爪でも生えているのか…。懸垂7mで雪渓に降りる。予定の右俣は雪渓が接地しており、懸垂なしで降りることができた。ここから先は滝の連続。2段30m滝は右岸草付から左岸を登り、2段15m滝は左岸を巻くが落ち口へのトラバースがやや悪い。ふたたび沢を雪渓が埋め、黙々と歩いていくがいつしか急傾斜となり、左岸に逃げるも急傾斜でアイスハンマー使用して連瀑帯の途中に降りる。滝が消えると雪渓からの濁った流れとなり、即ち飯豊の源流であった。このころからガスが沸き上がり天候は悪化する。草と若干の灌木をこいで登山道に出るころには雨が降り出した。

一休みもせずにせかせかと大日岳へ。ガスの中昼飯をとり、取って返して梅花皮小屋(ビール)目指し縦走を開始する。ガスで何も見えないので時間が長い。烏帽子岳を登り返すと強烈な雨風が吹き付け、ひどい天気になる。梅花皮岳を越えてようやく水場に到着、うまい水をたっぷり汲んで梅花皮小屋に転げ込む。天気のせいか泊り客はまばらだった。お目当てのスーパードライにありついて満足する。切り干し大根と豆の煮物、FDのカレー、春雨スープを食べると疲れのせいか早々に横になってしまった。

16日(土)雨 風は収まったものの降り続いている。北股岳へ登り返すとおういんの尾根入口だ。道は刈り払いされているが、刈払われた草が放置されているので滑る、歩きにくい、こける。途中、ガスが切れて飯豊川、北股川を取り巻く山々が見渡せた。下るにつれて蒸し暑くなり、急なくだりを慎重にこなすと湯の平山荘に戻った。水がうまい。ここから急な下りを取り返すがごとく道は急登になり、怨嗟のうめきを漏らしながら北股川のつり橋、加治川ダムへ戻る。ここで昼飯。乾燥した食料ばかりでいい加減食欲がなくなる。さらに1時間半の林道歩きを黙々とこなすと治水ダムのPに戻った。

山行最終日:2014年8月16日
メンバー:長島(L) 井谷
山域: 同行者の記録
山行形態: 沢登り
コースタイム:
地形図:飯豊山・二王子岳・大日岳
報告者:井谷