持場沢は矢沢では最大の支流だが、出合から稜線までの標高差約900M、水平距離2km弱の比較的小さい沢である。
この沢を遡行するためのアプローチとしては大盤振る舞いの感もあるが、往路は実川林道ゲートから登山道で早川のつきあげ、さらにオコナイ峰を経て持場沢よりも下流の枝沢を下降し、復路は櫛ガ峰南方の小ピークから早川のつきあげを経て実川林道ゲートまで往路を逆に辿る。週末山行として実施する上での苦肉の策でもある。
8月31日(晴)
今回の山行では櫛ガ峰の南側にある小ピークあたりまでの区間を往復することになるので、ゲート手前のスペースに車を停めた。何度かオンベ松尾根を歩いているが、早川のつきあげまで登るのは今回が初めてになる。前回は8月15日にこのルートを降りてきたが、それと比べると朝とは言えだいぶ暑さが和らいでいる。何よりも虻がほとんどいなくなっているのが嬉しい。
連日の雨で前川本流は増水気味だが、アシ沢は石伝いに渡れた。前川右岸の山道が分かれる台地から急登を終えた辺りで一服、さらに月心清水で昼食を摂って、早川のつきあげには13時過ぎに到着した。
ここで沢支度を整えてオコナイ峰北峰までの藪尾根に取り掛かる。櫛ガ峰はガンコウランの絨毯に覆われた見通しの良いピークで、三角点の柱石がある。何か所か手強い所もあって北峰に至るまで2時間強を要した。途中、緑の斜面に白い筋を描く持場沢を見下ろすことができ、源頭部には地盤が露出した斜面があるのが見えた。
北峰から西南西に進路を変えて、双耳峰のコルから矢沢の810M地点へ続く谷地形を辿る。しばらく密な笹薮を降ると次第に灌木が混じるようになる。
1550M付近で水が湧き出ていて、水が流れ始める。沢型は窪というにも浅く、両岸との高低差もほとんどないが、石が露出していて笹や灌木が生えてない。傾斜こそ強くないが石が不安定なので慎重に下降する。1450Mあたりにかけて何か所かで水が湧き出ていて水量が増してくる。植生は笹と灌木からイタドリと灌木に変わり、水流は分岐したり合流したりを繰り返す。地形図から幕場適地を期待していた1000Mから850Mの間も一向に藪が開けてこない。
850M付近で諦めて右岸の尾根に平坦なテラスを探すが見つからず、少し下降するうちに木々の合間から本流の流れが見えてきた。下調べに使った記録には持場沢出合付近はゴーロだというようなことが書かれていたので、何とか横になれるくらいの場所ならあるだろうと思って本流に下降することにする。下降してきた枝沢から尾根の先端は流れが急なので、少し上流側にトラバースしたところから懸垂で流れの脇に降りた。ちょうど対岸に小高くなった小さな砂地があったのでツェルトを張った。
9月1日(曇時々晴)
出発前に改めて周囲の渓相を見回してみると、下降点のすぐ下流は8×8くらいの斜瀑で、上流は開けたゴーロとなっている。遡行開始後まもなく左岸に小さな枝沢を分け、さらに同じくらいの間隔で持場沢出合に着いた。本流は尚もゴーロが続いており、持場沢は出合が見えてきた辺りからは切り立った壁の間から流れてくるように見える。
出合の正面に来ると、壁の間に2段の滝が現れる。一見登れないかに見えたが、近づいてみると右側の岩に手頃なホールドがあって意外に簡単に登れた。少し河原を歩くと7Mの少し立った斜瀑が現れ、右側のバンドを斜上する。2MCS、6M2段と続く滝を共に右側のバンドを歩いて越えると、右岸が切り立った一枚岩の壁になって左岸の大岩との間から流れ落ちる9M滝が懸る。大岩の下部は岩屋のように空洞になっていて取付けないので、大岩の裏を回り込むように小さく巻く。ほとんど間髪入れずに右壁を伝い落ちる15M滝が続く。左側上部は二つの大岩が乗っているかのような形状をしている。右壁と右斜面のコンタクトラインをブッシュ伝いに25Mくらい登って巻く。1100Mで流れが屈曲している所までしばらくゴーロが続き、この間に左岸に二カ所の小さな山抜けがあり、4M、2Mの小さな滝を越えた。
1100Mでは正面と左岸から細い枝沢が流れ込んでおり、本流は左に折れて7M3条の滝を懸けている。左の水流が5M、中央と右の水流が7Mといった感じで、正面の枝沢から滝の右側を登る。続く樋状の8×7は水流左側のスラブを登り3M滝を越えると、流れは右に折れる。
傾斜の緩いナメ滝が断続的に現れる河原が続いて快調に距離と高度を稼げる。全体に切れ込みが浅い谷だが、ナメ滝が懸るところは流れの両脇にも岩盤が広がっていて見通しが良いため一層開けて見える。1365Mで左岸に(4:1)で枝沢を分け、1500Mで(1:1)の二俣を左へ進むと少々ボサが被ってくる。1610Mから1625Mあたりにかけて湧水帯となって水流がなくなる。
笹を掻き分けながら沢型を辿り、沢型が消える辺りから藪の薄い左寄りへ進路を取ると、草付帯とブッシュ帯を抜けて前日尾根から見えていた露岩帯に出た。露岩帯とブッシュ帯の境を登り、露岩帯の上端からブッシュ帯を横切ると再び禿げた斜面に出て高度を稼ぐことができた。藪が薄い所を縫って進み、最後はハイマツを掻き分けていくと次第にハイマツが低くなってきて櫛ガ峰南方の小ピークに出た。
尾根の東側には無木立のテラスがあり、そこで一服を兼ねて昼食を摂る。昼食後往路を逆に辿って車を停めたゲートに戻った。
8月31日:実川林道ゲート(7:45)-登山口(9:40)-月心清水(11:05/20)-早川のつきあげ(13:05/30)-オコナイ峰北峰(15:35)-矢沢830M付近(18:20)
9月2日:幕場(6:55)-持場沢出合(7:05)-1100M(8:20)-1365M(9:25)-櫛ガ峰南小ピーク(11:30-11:45)-櫛ガ峰(12:15)-早川のつきあげ(12:35/50)-月心清水(13:45/50)-登山口(14:35)-実川林道ゲート(16:45)