今回の山行では櫛ノ倉沢を遡行後に烏帽子沢を下降して最後に三杯汁沢を詰める計画をしていたが、想定していたより気温が低いことや台風の影響が気になったのに加えて、先日の山行(矢沢)で失くしてしまった写真の光景の一部でも取り直したい思いがあったため、三杯汁沢遡行に絞って矢沢出合までは矢沢遡行時と同じルートを辿ることにした。
19日(晴時々曇):
矢沢を訪れた際と同様に五十嵐家住宅付近の駐車場に車を停めた。山行初日の予定も同じくブナ入ノ平までだが、前回の記録を参照しながらルートを辿った。前回の山行と全く同じ所にツェルトを張った。
20日(曇):
幕場を発ちしばらくブナの段丘を歩いてオコナイ沢に下降し、オコナイ沢を渡って枝沢に少し入ったところから本流に向かって大高巻きに入る。藪を掻き分けて小尾根に取付いて800M辺りまで登ったところから本流に向かって下降、最後に15Mの懸垂下降で裏川に降り立った。
穏やかに流れる裏川の右岸寄りを歩くと間もなく岩壁に挟まれた深い瀞となる。見た目はたいして深くなさそうだが、実際には足が底に着かないことは承知している。今回は気温も低い上に陽も差していないので泳ぐ気はなく、右岸の細い枝沢の滝を左から巻いて滝上を横切ってゴルジュ入口の手前に下降する。前回の捨て縄を利用して深場の右岸の小スラブに降り立ち、そのまま左壁をへつり深場をかわしてゴルジュに踏み込む。
ゴルジュに入ると早速前方に天狗橋が見えてくる。二俣から本流側は全くと言っていいほど攻略点が見当たらない圧倒的なゴルジュである。二俣から矢沢に入って天狗橋の真下に懸る2M滝の水流の左側を登る。5日前よりも若干水量が少なく、水流左側の岩上を伝う細い流れがなくなっていたのでたいして濡れることなく滝上に立つことができた。ここでゴルジュの奥に懸る10M滝の写真やゴルジュから見た天狗橋の写真を撮りにしばし寄り道をする。天狗橋の右側のカーペットのような苔に覆われた岩棚を登って本流と矢沢を隔てる尾根に取付く。尾根を少し登ったところから矢沢側のバンドを進んでゴルジュの上や10M滝を見下ろした後、本来の高巻きルートに戻ってコウゲ滝の上に向かう。高巻き途中にまだ小さいヒラタケを収穫。
コウゲ滝の上はしばらく穏やかな流れが続く。流れが大きくS字を描いて蛇行し終えた辺りで広い河原が1M滝で終わり、1M滝の上に深くて大きな淵がありここからゴルジュとなる。左から張り出すリッジ状の岩を越えて淵をかわしてしばらくすると、ゴルジュはクランク状に屈曲し、その中間点に2段の滝を懸けて三杯汁沢が流れ込んでいる。左右の壁共に左側に傾いた節理で、その凹角を水流が流れ落ちている。
クランク状屈曲点の手前まで戻ったところから出合の滝を巻く。スラブ状の壁に取付くが、登るにつれてホールドが甘くなり、ちょっと悪い。何とかブッシュ帯に取付いて登っていくと、出合の滝の上に8Mの直瀑が続いておりこれもまとめて巻いてその落口に降り立った。出合の滝に向かっていた意識を上流に向けると、水量が少ない上にスカ沢の雰囲気が漂っている。
高巻き終了点付近は両岸共になだらかな樹林だったが、左右に鈍角に流れが折れた先に両岸ともに切り立った壁の間に4Mの滝が懸る。これを右岸から巻くと、少し開けた渓相になり平面壁の2M滝と間をおいて3M斜瀑が懸る。左岸がスラブ壁となった基部に湧水があり、間もなく急傾斜のゴーロとなって流れが右に折れる。末広がりの釜に注ぐ2M滝とそれに続いてもこもこした壁に「人」の字を連ねたような9M滝をまとめて右岸から巻く。
12Mの斜瀑の右側を登っていくと落口で右に屈曲して10Mの長簾状のスラブ滝が懸っている。スラブ壁は水流の左側に30Mくらい広がっており、滝の落口付近でブッシュ帯で水流と隔てられた先まで50M程続いている。スラブを登ると最上部で水流と合流して、ブッシュ帯に隔てられていた水流を見下ろすことができる。こちらはスラブではなく切り立った壁の間に幾つかの滝が連なっていた。恐らくこの辺りが地形図の875Mに記された滝記号に相当するであろう。
スラブ上部で6M滝を右岸から巻いた後三つの小規模な滝を過ぎ、連続する5M-15M-8Mの滝を右岸の斜上バンドを伝って巻き気味に越えた。5M滝を越え、3MCS滝を右岸草付から巻くと、少しの間開けたゴーロになった後すぐに狭まって草付のV字谷となる。谷が蛇行する中3~4Mの滝3本を越えた後、3MCSは登れず右岸を巻いて懸垂で滝上に降りる。8Mのジグザグに折れた滝が懸り、その落口のかなり先にもう一つの滝の落口付近が見える。先に見える滝の位置からするとかなりの高度差がありそうなので、地形図の1110Mの滝記号の辺りだろう。8M滝の左岸のブッシュ帯に取付き斜度が落ちてきた辺りで左側に降りていくと1050Mで出合う左岸枝沢に出た。地形図の滝記号に相当する滝を基部から見上げられないのは残念だが、幕場になりそうな所を探したい時間になってきたので出合には降りず枝沢の対岸の急なブッシュ帯を登って本流に戻った。足下には10M位の滝が懸っていたが、8M滝の基部から見えていた滝はもっと下方だっただろう。すぐに8M滝が続いているが、左岸の斜上バンドをブッシュを掴みながら登った。
ゴーロの一角に何とかツェルトを張れそうな砂地を整地して幕場を設えた。水面からの高さは10cmあるかないか、降られたら水没だろうが、幕場になるような場所が極めて少ないこの沢では即決しないと幕場難民になる可能性が高いので仕方がない。流木が豊富にあり労せずに集めることができたので、久しぶりに火を熾してまったりした。
21日(曇のち雨):
夜中寒くて目が覚める。そろそろダウンのシュラフに変えた方がよさそうだ。幕場を発つと沢はすぐに右に折れて幅が狭まる。一枚の岩盤上に小滝が連なった後、左に折れて両岸に草付が広がる浅いV字の開けたゴーロが続く。地形図では等高線の間隔が開いて幕場がありそうにも見えるが、昨日の行程と同様に幕場になるような平坦な所はほとんど見当たらない。
1330Mで沢が右に折れる辺りから両岸の傾斜は一層緩み谷が浅くなる。右手にいくつかの湧水があり水量は一層減ってくる。2M-2.5M-4Mの滝が連続し、4Mの滝は登れずに左岸を小さく巻いた。さらに二つの滝を過ぎると1460Mで左に枝沢を分ける。地形図上は左が枝沢で右が本流と見て取れるが、実際の地形は左の枝沢の方が低く真っ直ぐに続いており本流が滝を懸けて流れ込んでいる。また、水流のほとんどは左の枝沢から流れてきており、本流はほとんど涸沢である。
出合の滝は6M程度ですぐに2Mの滝が続く。ほとんど水流がない谷に4~7Mの枯棚がぽつぽつと現れる。1700M辺りからボサが被ってくるが、やがてブッシュもなくなり草原帯に変わり藪漕ぎすることなく稜線直下に至る。
稜線の西側はハイマツと笹に覆われているが、東側は草原帯で僅かに踏跡のようなバンドが見られ薬師岳まで続いている。薬師岳から西大日岳の間も、稜線上とその北側がハイマツと笹に覆われているのに対して、南側は草原帯である。南側は斜度が急なので、西大日岳までは笹と草原帯の境目付近を歩く。
西大日岳からは登山道を辿って大日岳に出た後、オンベ松尾根を下って登山口に降りた。湯ノ島小屋に泊まっていくか、駐車場まで歩いてしまうか迷ったが、蚊が少なくなってきているので一度くらい泊まってみようかと思って小屋に向かった。予想通り小屋には誰もいなかったが、水汲みを終えて荷物を広げていると小屋回りの草刈りに来た北関東源流会4名様御一行がやってきた。
夕食は翌日昼食用のパンを齧って済ませようかと思っていたが、酒やキノコをご馳走になった。
22日(曇時々晴):
御一行は二泊の予定で来たが前夜呑み尽くしてしまったそうで、酒の買い出しに向かう車で駐車場まで送っていただいた。
19日:五十嵐家住宅付近駐車場(8:25)-裏川堰堤(9:25)-要所口(11:15)-櫛ノ倉沢対岸段丘(13:15/30)-ブナ入ノ平(17:15)
20日:ブナ入ノ平(6:05)-裏川(8:50)-矢沢出合(9:40/10:00)-コウゲ滝上(10:35)-三杯汁沢出合(11:25)-850Mスラブ上(13:40)-1100M付近(15:30)-1180M付近幕場(16:40)
21日:1180M付近幕場(6:25)-1460M(7:55)-稜線直下(10:05)-薬師岳(11:15/25)-西大日岳(11:55/12:40)-大日岳(13:20)-早川のつきあげ(14:40/45)-月心清水(15:50)-登山口(16:40)-湯ノ島小屋(16:50)
22日:-